◎自己紹介 *専門は脳神経疾患の研究 これまでは脳を直接見られなかったが、 近年、iPS細胞を利用して直接実験ができる ようになった。 → この分野の研究の進歩が、最近加速している。 *宇宙飛行士への放射線の影響も研究。 テーマ:「地球外でも人体、特に脳は長期間にわたって 正常にはたらくのか。」 アメリカで研究中、近くに宇宙関係の研究をしている 研究グループがあったので関心を持った。 日本でも放医研(放射線医学総合研究所、千葉市稲毛区) と共同研究を行っている。 ◎宇宙での放射線の影響について *「アイフラッシュ」という現象がある。 → 宇宙放射線が宇宙船を通過することにより、 宇宙飛行士に「光」が見える。 80%の宇宙飛行士が見ている。 毛利さん、向井さんも見たと言っている。 [中嶋注] Fuglesang et al., アイフラッシュ調査報告 (英文アブストラクト) *どのようにみえるか? 星がチカチカしながら通過するように見える。(向井さん) 宇宙放射線が通過するのはどうしてわかるか。 (略) ◎太陽風、宇宙・地球、放射線環境 *「太陽風」とは: 太陽から放射される、10nT(ナノテスラ)の磁力線を持った 高速粒子の流れ、速度は300km/s, 成分は、ほとんどが水素とヘリウム原子核、炭素などは1%程度。 *地球の防御メカニズム: 地球にはNS磁石のような磁力線がある。 [中嶋注] 右図、九州大学総合研究博物館より 実際の地球磁気圏: 太陽風によってつぶれた形 太陽風は逸れるが、一部は入り込んで放射線帯になる [中嶋注] JAXA、きぼう広報・情報センターより 内側、陽子、3000km, 外側、電子、10000km ISSは400km *自然放射線 2.4ミリシーベルト(mSv)/年 ISS(国際宇宙ステーション)では 1 mSv/日 1 Sv でがん発症率 5% 100 mSv 以下ならばOK 月面では 2.2 mSv/日 火星では 最短往復でも 660 mSv [中嶋注] NASA の有人月面探査計画(JAXA のページより) NASA の2030年代、有人火星探査の計画(産経ニュース、2015年10月) *惑星間有人飛行 火星でも片道9か月 *突発的な放射線 太陽フレア ロシア宇宙ステーション「ミール」での測定 船内5mSv、船外30mSv ◎放射線で人間はどうなるか? 思考に影響? 「アイフラッシュ」では網膜に影響がある。 → 脳にもあるに違いない。 *陽子線治療でも起こる 重粒子線治療(炭素原子核などを使用)、日本では4か所。 がん以外の細胞にも影響がある。 重粒子線は体内で止まる瞬間にエネルギーを発する。 → 止まる深さを調節して、がん細胞を殺す。 アメリカの治療機関で、脳の放射線治療の際にアイフラッシュ が見られた。 → 眼だけではない、聴覚・嗅覚・味覚も。 これらに共通しているのは神経細胞 → 宇宙放射線は、脳の活動に影響を与える? *脳細胞は影響を受けるか? てんかん? 錯乱? 気絶? 応答した場合、その作用機序は?予防法は? → これを地上の実験で *地上で太陽風を作る ー 放医研での実験 (2mの厚さの鉄の壁の図) HIMAC(重粒子線発生装置) 炭素または鉄粒子を照射 [中嶋注] 右図、放医研 webページより SPICE (マイクロビーム細胞照射装置) 顕微鏡下で細胞をビームで狙い撃ち 使う細胞はニューロン [中嶋注] 右図、放医研 webページより *ニューロンの作用原理、神経ネットワークのメカニズム → 興奮するときカルシウム濃度が上昇、電気が発生、遠方へ伝達 [中嶋注] すまいるナビゲーターの webページより 神経細胞は培養できる ◎重粒子放射線を照射する実験 死なないか、誤作動はないか、薬はできないか *アポトーシスの実験 → 8時間後でもほとんど死ななかった。 *応答の調査(ネズミの脳海馬) → 2分照射 しばらく後 Fluo 4 の検査 (Ca2+ の蛍光で、刺激が伝わってゆくのが見える) (動画) マイクロビーム照射後、活動が上昇(イオノマイシンで確認) 周りの細胞の活動が低下してしまう ◎培養神経細胞の利用について 実験をヒトの脳でやりたいのだが、細胞を取るのは不可能 → そこで「培養細胞」を用いる。 iPS 技術で、神経細胞を培養することが2012年頃から可能になる *「幹細胞」について 幹細胞 = いろいろな器官に分化し得る細胞、胎児の細胞など。 胎児だけでなく大人にもある(脳の深いところ、など) *「iPS細胞」について 大人の細胞に4つの遺伝子操作を加え、受精卵の細胞と同じように いろいろな細胞に分化できる能力を持たせたもの。山中教授の開発。 [中嶋注] 京都大学iPS細胞研究所 約2か月の培養で数千個の細胞の塊であるコロニーができる。 ここから神経細胞を作れる → これを使って照射実験 放射線の作用点を調べられるので、防御法、薬剤の開発、につながる。 ◎ヒトiPS細胞の話 *再生医療への応用 赤血球、白血球も作れる、大量生産も可能 → 献血が要らなくなる! *薬剤の開発も、これを使えば開発が加速される。 (マウスの細胞は、やはり人間とだいぶ異なる。) *心筋細胞の培養・移植 (移植した心筋細胞が鼓動している映像) 放射線も心臓に影響するかもしれない。 *網膜移植は実際に成功している → 理研、高橋さん [中嶋注] JST(日本科学技術振興機構)の解説ページ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 質問 *火星への旅行について? > NASA が 2030年を目標に計画。 現在学生である人たちが関わるだろう。 *体も大変だが脳もやられないか? > ISS(の高度)ではあまり心配ないが、深宇宙では危険。 *細胞を新たに増やして、傷ついた細胞を補えるか? > 大人にも幹細胞が少しある。薬剤で再生を促すこともできる。 ランニング、(天文講座の受講のような)知的な活動などでも 増やすことができる。ただし、0.1%程度。 死ぬ細胞も多いので、0.1%程度ではだいぶ不足。 *ピンポイント実験で、周辺が活動が下がるのはなぜか? > 視覚領野では、コントラストを付けるために周りの細胞が低下する ことがある。 *抑制する物質が出るのか? 抑制するシナプスがあるか? アイフラッシュとの関係は? > まだよくわかっていない。 *重粒子線のスピードは? > 光の数分の1? 不明。 *放射線の癌への影響? > DNAが壊れ、コピーができてしまう。 多くの細胞はアポトーシスで死んでしまうが、アポトーシスを 起こすところを壊してしまうと癌になってしまう。 癌にならないようにする遺伝子も壊される。 いくつかの突然変異の同時発生。 *放射線と突然変異との関係? > (略)