2017年3月18日 第612回 月例天文講座 

太陽系小天体の謎
   ー予測通りにならないから面白いー

          国立天文台副台長 教授 渡部潤一     

 2013年2月のロシアへの隕石落下、ほぼ同時に起きた小惑星の地球へのニアミス、そして天体ショーの中でも特に注目を集めたアイソン彗星は11月末に太陽に接近し、12月には大彗星になると期待されたが、太陽接近時に崩壊してしまった。こうした彗星、小惑星、流星などの太陽系小天体の振る舞いは、しばしば予測と異なるところが逆に面白さでもある。

 太陽系は惑星、準惑星、そしてそれに含まれない太陽系小天体に分類される。2006年に定められた分類は、もともと冥王星の位置づけをはっきりさせるためであった(詳細は拙著「新しい太陽系」を参照)。この分類に従えば、小惑星の大部分、太陽系外縁天体、そして彗星が、流星になるような砂粒やチリも含めて太陽系小天体に分類される。
 このうち小惑星は主に火星と木星の間、小惑星帯に存在し、岩石質である。これに対し、彗星は水の氷を主成分とし、微量成分として炭素、酸素、窒素に水素が化合した種々の分子や、砂粒のような塵(ダスト)が含まれている。太陽系外縁天体は、海王星よりも遠方にあり、彗星と本質的には成分は変わらないが、太陽に近づかない限りは彗星活動(太陽に近づくと融けて、ガスとなって蒸発・噴出し、そのガスとともに細かな塵や砂粒も放出する活動)はない。

 小さな小惑星や彗星は地球に近づくか、衝突でもしないと見つからない。チェリャビンスク隕石のように地球に衝突するまでわからないものがほとんどである。つまり、いつどこに衝突するか予測がつかないのである。さらに彗星はその活動が個性的であり、明るさも振る舞いも予測できない側面が多い。特に初めて太陽に近づく彗星では、尾がどの程度発達するのか、明るさはどうなるのかを予測するのは難しい。2013年のアイソン彗星は、その典型例だった。彗星は一年に数十個も発見されるが、肉眼で見えるほど明るい彗星は希有である。大彗星になるには、
 (1)単位時間あたりの蒸発量が多い=核が大きい、  
 (2)太陽に近づく、
 (3)地球からの観察条件が良いこと、
という三つの条件が必要である。 アイソン彗星は、これらの条件を満たしていた。発見時、太陽から遠かったものの、その後の軌道計算から2013年11月29日には太陽の表面から約120万kmにまで大接近することがわかった。発見時の明るさから推定すると、ハレー彗星に匹敵する大型の彗星と期待された。ところが、太陽観測衛星SOHOで撮影されたアイソン彗星は、太陽に接近する直前から暗くなり、輝きを失って、筋雲のような姿となってしまった。核は完全に崩壊したのである。太陽系小天体には、まだまだ謎が隠されていることを教えてくれたといえる。アイソン彗星に限らず、実例を紹介しながら、その面白さと謎を紹介する。

                     太陽観測衛星SOHOが捉えたアイソン彗星の変化
参考文献

「夜空からはじまる天文学入門」(化学同人)
「ガリレオがひらいた宇宙のとびら」(旬報社)
「天体写真でひもとく宇宙のふしぎ」(ソフトバンククリエィティブ)
「面白いほど宇宙がわかる15の言の葉」(小学館101新書)
「天文・宇宙の科学 図鑑シリーズ」 (大日本図書)


[参考](中嶋記) *右上カットは,TRAPPISTが2013年11月15日に撮影したアイソン彗星.   (Wikipedia より)