2017年5月20日 第614回 月例天文講座
ブラックホール観測の展開
― ホシはクロか? ―
JAXA, 宇宙科学研究所 名誉教授 平林 久
想像されたブラックホールがいろいろな現象をともなって次第に姿を現してきた。現在の状況を具体的に、ひろくながめてみよう。
1. 想像の時代
ものが十分狭いところに押し込められて光でも出てこられない天体というナイーブな考えは19世紀に芽ばえた。
アインシュタインの一般相対性理論でブラックホールの解を初めに導いたのはシュバルツシルドであった。さらに回転するブラックホールの解がカーによって得られた。
ここまでは数理の世界と言ってよかったが、実際に存在するのだろうか。
チャンドラセカール、エディントン、ランダウ、オッペンハイマーなどの理論家が、白色矮星、中性子星などのコンパクト星を経て、ブラックホールができる可能性に迫っていった。
2. まず電波でみえてきた
電波で明るい銀河である電波銀河は、反対側の2方向に耳たぶ、あるいはジェット状の姿をしていた。また星のように見えるクェーサーと一致するものもあった。このような観測の必要性から、電波望遠鏡は進化を遂げていった。
3. 光で見えたクェーサー
星のようにみえたクェーサーは宇宙規模に遠くで輝く天体であることが、光のスペクトルのズレからわかった。最近では、銀河の中心部分の動きから回転の様子がはっきり捉えられて、そこに局在する質量が測られる。これが超巨大ブラックホールと考えられ、その質量は銀河バルジの質量の約1000分の1程度という関係がある。
さらに電波の精力的な観測から、これらは、銀河の中心での活発な現象を見ているのだと理解されるようになった。そしてこれは次第に、超巨大ブラックホールに落ち込んでいく物質が「活動銀河核」を形成しているのだという理解に収束している。
VLBI,スペースVLBIの圧倒的な解像度で、超巨大ブラックホール近傍からのジェットが描き出され、最近ではサブミリ波VLBIでブラックホール周辺の姿が直接観られるようになりつつある。
4. X線でみえてきた
X線観測が始まると、点状で明るく時間変化のはげしい天体が観測されるようになった。この方向に光の星がみつかり、X線星と光の星が連星になっていると解釈された。これからX線を出す星の中心にはブラックホールがあって、X線はブラックホールをまわる降着円盤からでていることがわかった。(最初の例:Cyg X-1)
こうして、星スケールのブラックホールは確かと思われるが、さらにこれよりも2桁、3桁重いブラックホール(中間質量ブラックホール)と思われるものが見えている。
5. ガンマー線でも
ガンマ線観測が始まると、短時間のはげしいガンマ線を出す[ガンマー線バースト]天体が見つかるようになった。そのなかでも一過性の物は、その位置がなかなか決められなかったが、2003年に、とうとうその方向がわかり、それが遠方の特定の銀河から発していることがわかった(GRB030329)。光のスペクトルのズレから距離がわかり、これは、太陽の30-60倍ほどの星の超新星爆発をとらえたと理解されている。このとき、ブラックホールが形成されたはずである。
6. ニュートリノでみる
超新星の爆発、あるいは天体の合体によって、大量のニュートリノが飛散する。大マゼラン星雲中のSN1987Aでは、星の重さが足りずブラックホールにはならなかったと思われるが、将来、ブラックホールを生み出す超新星爆発がとらえられるだろう。
7. そしてとうとう重力波でみえた
ブラックホール同士の合体によって発射された重力波が2015年に初めてとらえられた。(合体前と後のブラックホール質量(太陽の29倍と36倍)、距離13億光年(よって合体時も)が、重力波観測だけで決定された。宇宙での合体の観測頻度が年数回ほどなので、これからの進展が大いに期待される。LISA,DECIGOなどの宇宙干渉計が実現すればさらに重いブラックホール合体が観測できるだろう。
8. ブラックホールの系譜
以上、観測分野別にみると、ブラックホールガいろいろな形でとらえられていで、今後がおおいに期待される。そして、全体的にみておおきな謎が浮かんでくる。
・銀河中心の超巨大ブラックホールはどうやってできたのだろう。
・宇宙年令で10億年弱で超巨大ブラックホールができている、これはなんとも早い!
・どうして銀河のバルジの質量の1000分の1だろう。
・宇宙にはくェーサーがはげしく輝く過去があった、それはなぜだろう?
・この問題にダークマターの関与はあるのだろうか??
ブラックホールがいろいろに見えてきて、その系譜に大きな疑念が深まっている。
[参考](中嶋記)
*右上カットは,
宇宙科学研究所のページより,M87銀河中心の巨大ブラックホールから噴出するジェット.右下図は,スペースVLBIで捕らえられた,中心部の高分解画像. (クリックで拡大します.)