2017年6月17日 第615回 月例天文講座
月面衝突閃光
電気通信大学 教授 柳澤正久
太陽系内には、大きさ1ミリメートル以下から1メートル程度までの無数のメテオロイドが飛び交っている。これらは小惑星の破片や彗星がまき散らした塵である。これらが地球大気に突入すると流れ星となって見える。一方、メテオロイドは大気のない月では月面に直接衝突する。大きなものが月の夜側に衝突した場合には小さな望遠鏡でも観測できるほど明るく光り、月面衝突閃光と呼ばれている。写真は2007年12月15日に滋賀県の石田正行氏が撮影した月面衝突閃光である。明るさは5等級、肉眼でも見えたかも知れない明るさである。
では、なぜ光るのだろうか。メテオロイドの典型的な速度は音速の100倍ほどもあるのだから光っても不思議ではないと思うかも知れない。しかし、発光のメカニズムはまだよく分かっていない。これを調べる一つの方法は、高速度衝突実験である。2段式軽ガス銃という装置で弾丸を音速の20倍程度で発射し、岩石などの標的に衝突させ、その様子を高速度カメラなどを使って調べる。最初に弾丸が貫入していくときにジェッティングと呼ばれる高速のガス流が発生する。貫入後には高温のガスが沸き上がる。最後に高温の破片や液滴が飛散する。どの過程が月面衝突閃光の主要な発光を担っているのだろうか。
月面衝突閃光は、人間あるいはロボットが月面上で活動する場合の安全性を調べる目的でも研究されている。メテオロイドの衝突エネルギーが大きければ大きいほど危険であり、どのくらいの衝突エネルギーをもったメテオロイドがどのくらいの頻度で衝突するのかを知ることが大切である。月全体では、1キログラムの爆薬がもつのと同じエネルギーの衝突が1日に100回ほど起きているようである。
メテオロイドの衝突時に閃光と同時に発生する地震波を、月面に設置した地震計で測定し、月の内部を調べようという計画も進んでいる。月がどのように誕生したかはまだよく分かっておらず、そのためにも月の内部構造をよりよく知ることが大切である。2019年には、月面衝突閃光を宇宙から観測する小型探査機も打ち上げられる。今後10年くらいの間に、閃光自身の研究やこれを利用した研究が大きく進展すると思われる。
[参考](中嶋記)
*右上カットは,
JAXA,かぐやのページより
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柳澤先生研究室ホームページ
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文中写真の出典