2018年11月17日 第632回 月例天文講座 

オールトの雲と彗星

     国立天文台RISE月惑星探査検討室  樋口有理可 

               (右図は,クリックで拡大 → )
1 太陽系の姿

1)現在の太陽系の姿
 2006年にプラハで開催された国際天文学連盟で採択された定義により、太陽系とは太陽のほか、地球や木星などの8個の惑星、ケレスや冥王星などの準惑星、月などの衛星、それら以外(=太陽系小天体)で構成される。惑星や多くの小惑星はほぼ同一平面内を公転しているが、多くの彗星はその平面から外れた軌道を持つ(図1)。

2)オールトの雲
 オランダの天文学者であるオールトは、長周期彗星(非常に遠くからやってくる彗星)は太陽に対してあらゆる方向からやってきていることに気がついた。そのことから、太陽系のいちばん外側には彗星の巣があり、それが太陽系をまるく取り囲んでいるという仮説を立てた(Oort 1950)。その彗星の巣を「オールトの雲」と呼ぶ。オールトの雲はどのように誕生したのか?それは太陽系の誕生を考えると自然に説明できる。

3)太陽系の誕生
 惑星は原始太陽のまわりに付随する原始太陽系円盤と呼ばれる円盤から誕生した(図2-(1))。まず、円盤内の塵(固体成分)が何らかの過程を経て合体し、微惑星と呼ばれる数mから数10kmサイズの天体に成長する(図2-(2))。その微惑星がさらに合体成長し惑星になる(図2-(3))。
 微惑星のすべてが惑星になるわけではない。惑星にぶつかることなく小さいままで生き残った微惑星は、小惑星や彗星といった太陽系小天体そのものである。一方で、太陽の重力をふりきって星間空間に出て行ってしまう微惑星もいる。星間空間にはこうした微惑星が多く浮遊していると考えられている。ぎりぎり星間空間へ出て行かなかった微惑星は太陽系のいちばん外側で生き残る。この小天体の集合こそがオールトの雲である。


2 オールトの雲と彗星

1) 彗星の軌道 
 有名なケプラーの法則にあるように、太陽系の天体は太陽を焦点とする楕円の軌道を持つ。火星と木星の間にある小惑星の軌道は円に近く、惑星とほぼ同じ平面をまわっている。一方、オールトの雲からやってくる彗星は、非常に長く伸びた楕円軌道で、惑星から大きく離れた平面をまわっている。それはオールトの雲が平らに広がっているのではなく、太陽系を遠くからまるく取り囲んでいるからである。オールトの雲は銀河系からの力で揺さぶられ、そこから彗星が落ちてくる。よって、オールトの雲の彗星は少しずつ減少している。オールトの雲から落ちてきた彗星の多くは双曲線軌道で、星間空間に出ていってしまう。

2) ウアムアムア('Oumuamua, 1I/2017 U1)はどこからきたのか
 2017年10月末に発見された天体(ウアムアムア、U1)は太陽系の外からやってきたと考えられている。その理由、またそうではない可能性について説明する。



[参考](中嶋記)
*右上カットは,国立天文台のページより(クリックで拡大).
天文月報,2007年1月号記事