2019年7月20日 第640回 月例天文講座
水沢緯度観測所の歴史と文化遺産
国立天文台水沢VLBI観測所 助教 亀谷 收 先生
この4月に世界の電波望遠鏡を繋いで楕円銀河M87の中心のブラックホールの姿が世界で初めて発表された。国内でその研究グループの取りまとめ役として説明したのが現在の自然科学研究機構 国立天文台水沢VLBI観測所(岩手県奥州市)の本間希樹所長である。実は、今回の研究にとって不可欠であった国際共同研究は、その前身である緯度観測所時代から面々と120年に渡って続けて来られている国際共同研究の歴史の成果の現れであると言う事もできる。
今から120年前の1899年に臨時緯度観測所という暫定的な名前で当時の岩手県水沢町に設立された緯度観測所には、若干29歳の木村榮(きむらひさし)が所長として着任した。当時の天文学及び測地学の最先端の研究対象は、地球の地面に対して北極と南極の位置が約1.2ヶ月周期で10m程度の動きを行う極運動の解明であった。この動きを追うために、世界の緯度39度8分の線上に世界に6ヵ所の観測局が設置され、その一つが日本の水沢であった。各局で天頂付近を通過する星の位置の変化を眼視天頂儀を使って精密に測定することで、各局の緯度の変化量を求め、それらの変化量を使って、北極の位置を求めていったのである。天文学上での国際共同研究が始まった。そのデータの詳しい解析から、1902年に木村榮はZ項という当時としては原因不明の極運動のゆらぎを発見する。この発見は日本の近代科学の一分野として天文学で初めて世界に認められた研究結果であった。この画期的な成果により、木村は、国内でもっとも有名な科学者の一人になり、第一回の学士院賞、英国王立天文学会ゴールドメダル、第一回の文化勲章などを受章したのである。
Z項の原因の解明は1970年まで持ち越され、若生によって、地球内部の流体核が存在することに原因があることがようやく解明された。
現在では、光学の観測から電波望遠鏡組み合わせるVLBI(超長基線電波干渉法)を使った電波観測へ移行し、研究対象の極運動から、専用VLBI装置であるVERAを使った天の川銀河の精密地図作りや銀河中心のブラックホール現象の研究へとシフトしてきた。
現在の国立天文台水沢VLBI観測所内には、最先端の電波観測装置やスーパーコンピューターと共に、120年もの歴史を持つ緯度観測所時代の建物や観測装置なども共存している。これらの古い建物のうち、4点は2017年10月に国の登録有形文化財に登録された。
[参考](中嶋記)
*右上カットは,
国立天文台水沢のページ より、「奥州宇宙遊学館」(旧緯度観測所本館).
*亀谷さんの報告記事のある、
国立天文台ニュース、2017年12月号(pdfファイル)