2020年9月19日 第654回 月例天文講座 

はやぶさ2の初期成果と
  太陽系研究の新展開

  東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻      教授 杉田 精司 先生


 小惑星探査機「はやぶさ2」は,2014年12月に打ち上げられた後,2018年6月に小惑星「リュウグウ」に 到着.そして2019年11月にリュウグウを離れて帰途につくまでの1年余りの間に,リュウグウ表面の詳細な 写真観測,光学観測,2度のタッチダウンによる表面物質の採取,小型ローバーの着地,人口クレーター生成 実験など,多くの実験・観測を成功させました.表面物質サンプルの地球への帰還は,本年12月6日の予定 ですが,サンプルの帰還を待つまでもなくこれまでの観測で小惑星に関するいろいろなことがわかってきましたので, 今回はそれをまとめてみます.

 まずリュウグウの表面の様子ですが,写真で見ると大きな岩石に覆われたような形になっています.これは 「ラブルパイル型」といって,多くの岩石が引力で集積したものであることを示唆します.すなわちリュウグウは, 一度形成された小惑星が衝突などにより粉々になり,そしてその破片が再び集結したものであることがわかります.

 次にリュウグウの表面の光学観測から,これが炭素質のコンドリュールの多いタイプの小惑星に分類 されることがわかり,このことから破片のもとになった母天体の候補を推測することができます.その候補は,小惑星帯に ある「ポラナ」または「オイラリア」という小惑星で,これらは「ポラナ族」および「オイラリア族」と呼ばれる一群の 小惑星のグループを形成しています.これらのグループは,約10億年前に大きな小惑星が他の小惑星と衝突・分裂した ものであると考えられ,リュウグウはこの時のどちらかのグループの破片が集積して形成されたものである,と考えられます.

 これらの2つの族のどちらが母天体だったかは,はやぶさ2が持ち帰るサンプル資料で明らかになることでしょう.

 これらをまとめたリュウグウの形成プロセスを図示すると,次のようになります.

 


[参考]
*右上の図は,宇宙科学研究所のページより.  (クリックで拡大します.)
*最後の図は 名古屋大学のページ より.

                                   (文責,中嶋)