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◎タイトルと、話の概要
概要
◎1922年、アインシュタインの旅日記
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(パンフレット『アインシュタイン日本見聞録』より)
(日本まで)
9月28日、ベルリン発。
10月 8日、マルセイユ港から、日本郵船の北野丸で出航。
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10月14日、スエズ運河通過。(船中で腹痛を起こし、三宅医師の治療を受ける)
11月10日、香港寄港、
ノーベル賞受賞の知らせが届く。
(三宅医師の墓碑、徳島県美馬市)
(日本着、東京)
11月17日、神戸港に到着、大歓迎を受ける。京都宿泊。
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11月18日、汽車で東京へ。東京駅では大群衆が歓迎。
11月19日、
慶応大学で講演。2000人以上の聴衆。
(
慶応大学記録)
11月20日、小石川植物園で歓迎会、夜は歌舞伎鑑賞。
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11月21日、赤坂離宮で観菊御宴、皇族方と会う。
11月22日、改造社、山本邸、増上寺、訪問。
11月23日、音楽学校で日本音楽を鑑賞。
11月24日、日本画を鑑賞。夜、
神田青年会館で講演
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11月25日、
東大で「時間と空間の相対性」を講義。
夜、市村座で尾上菊五郎を見、芸者の席へ。
11月26日、大倉集古館訪問、午後、能を鑑賞。
11月27日、
東大で「テンソル理論」を講義。夜、徳川家。
11月28日、東京商科大学で挨拶。
東大で「カルマン問題」講義。
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11月29日、午前、お茶会。午後、早稲田大学にて挨拶、
東大で「リーマンテンソル」講義。
11月30日、宮中で雅楽を鑑賞。
東大で「重力」について講義。大使館晩餐会。
12月 1日、
東大で最終講義「宇宙論」。ホテルで夕食。
(仙台)
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12月 2日、鉄道で仙台へ。市役所主催の歓迎会。
12月 3日、
東北大で講演。午後、松島観光。(
土井不曇の反相対論に応じる)
12月 4日、日光訪問、自然の景色を楽しむ。
12月 5日、中禅寺湖訪問。(日記に日本文化論)
12月 6日、東照宮訪問。東京へ。
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(名古屋)
12月 7日、東京発、名古屋に宿泊。
12月 8日、名古屋城訪問。
講演。
12月 9日、熱田神宮を観光。京都へ。
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(京都、神戸、大阪、奈良)
12月10日、京都市公会堂で
講演。京都御所訪問。
12月11日、大阪訪問。歓迎会と
講演。
12月12日、午前中休養、午後、二条城訪問。
12月13日、神戸訪問。夕方
講演後、歓迎会。
12月14日、京大で午餐会。午後、
京大の学生歓迎会で特別講演。
12月15日、知恩院、清水寺、祇園等訪問。
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12月16日、西本願寺、琵琶湖、三井寺等訪問。
12月17日、絹織物の店などを見学した後、夜は奈良へ。
12月18日、東大寺、春日大社、博物館を見学。
12月19日、若草山、法隆寺を見学。夕方、宮島へ。
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(宮島、門司、福岡)
12月20日、厳島神社等見学。
12月21日、海岸や森の中を散歩。
12月22日、散歩等で過ごす。
12月23日、門司へ。豪華な歓迎会。
12月24日、福岡へ。
講演の後、晩餐会。(三宅速、桑木彧雄教授同行)
12月25日、九大、門司YMCA等、あちこちを訪問するハードな一日。
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12月26日、門司付近を散策。
12月27日、海の遊覧、下関の散策。
12月28日、夕方、門司商工会議所の接待。
(帰国の途)
12月28日、門司港出航。
1月31日、スエズ運河通過。
2月 1日、ポートサイド入港、パレスチナへ。
2月16日、ポートサイド出航。
2月22日、スペイン訪問。
3月12日、スペイン、サラゴザ(日記の最後の日)。
4月上旬、ベルリンに戻る。
◎相対論のポイント
(まずは要点・概略を把握)
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1)「特殊相対論」と「一般相対論」の2種類がある。前者は1905年、
後者は1915年。
2)「特殊」は「一定速度」の相対運動について、「一般」は「速度変化」の
ある相対運動について考察。(後者は「加速度運動」ともいう。)
3)特殊は、「(一定速度の)相対運動における光速一定のナゾ」を解決。一般は
「(速度変化のある)相対運動における光の屈折のナゾ」を解決。
4)特殊では「動いているものは(運動方向の)長さが縮み、時間が遅れる」として解決、
一般は「速度変化のあるところでは時空がゆがむ」として解決。
5)副産物として、特殊では「物質とエネルギーは同等である」という新発見、一般では
「重力で光は屈折する」、「ブラックホールが存在する」、などが導かれた。
6)長さの縮み、時間の遅れ、時空のゆがみ、などは「座標」という概念を用いて計算する。
7)平面の上の図形の性質を研究する数学を「ユークリッド幾何学」、曲面の上での数学は
「非ユークリッド幾何学」という。
◎アインシュタインの講演
(石原純著『アインシュタイン講演録』より)
→ 一般の聴衆は、アインシュタインの話を理解できただろうか?
*
慶応大学での講演前半(特殊相対論)
・「運動」の表し方
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→ ある「基準体」を考え、それに「座標系」を結び付けて、数値化する。
・「力学」における運動と「慣性系」の概念
→ 「慣性(原文では惰性)の法則」というのがある。
これが成り立つような基準座標系を「慣性系」という。
(回転基準体ではこれは成り立たない。)
・「特殊相対性原理」
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→ 運動の法則は、すべての慣性系で同じように成立する。
・「光速度一定の法則」と、光や電気の物理
→ ところが、光や電気の物理法則は、同じように成立しない。
(光速度一定の法則により、速度の合成法則が成立しない。)
・「同時刻」の相対性
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→ よく考えてみると、離れた2地点の時計の同時刻というのは、
光速度不変の法則を考えると、移動している慣性系では異なる。
→ 同様に、長さについても異なってくることがわかる。
・「座標変換」によって説明
→ 移動している基準系での時間や長さの相異は、「座標変換」に
よって表される。
→ ローレンツが見つけた座標変換の式で、光速度一定を満たす変換
が得られる。
(これによると、移動する基準系では時計が遅れ、長さが縮む。)
・ローレンツの座標変換によって力学の法則を記述したものが「特殊相対論」
・これによって「慣性質量とエネルギーの同等性」が導かれる。
*
慶応大学での講演後半(一般相対論)
・特殊相対論では、まだまだ不満足な点が2つある
→ 1)基準系が「慣性系」に限られること。
2)慣性質量と、重力(をもたらす)質量とが別物扱いであること。
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・「等価原理」の導入
→ 非慣性系として「加速度運動系」を考えてみる。(加速上昇中の
エレベーターのような。)
→ この加速度系と慣性系の(中の物体の運動の)違いは、加速度系では
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物体に(何か或るみかけの)力が働くことである。
→ この力は重力とよく似ているので、両者は同一である(等価原理)と
して扱い、2つのナゾを一気に解決しよう。
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・重力による光の屈折
→ 加速度系の中では、(図のように)光が屈折するように見える。
→ 等価原理が成り立つならば、重力でも光が屈折するはずである。
(3年前の1919年に、日食観測で実証された。)
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・重力による時計の遅れ
→ 回転する円盤で考えると、回転する辺縁では(みかけの)遠心力が
働く。また、中心に比べ、運動しているので時間が遅れる。
→ 等価原理が成り立つならば、重力で時計が遅れる。
(これを検証する努力が、現在進行中である。)
・非慣性系における力学と、重力の性質と、両方を表す方程式が導かれる。
・「水星の近日点移動」、「重力による光の屈折」などの現象が、これで説明される。
また「宇宙全体の構造」の研究にも応用できる。
※回転する円盤では(円周が運動しているため)周の長さが
2πr より短くなる
→ 「ユークリッド幾何学」が成り立たない。新しい幾何学が必要。
→ 次回、説明。
*
青年会館での講演 (物理学における空間及び時間)
・「ユークリッド幾何学」と「直交座標系」
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→ ユークリッド幾何学では、平面上(あるいは空間内)の或る点
の位置は、直交座標系で(数値化して)表される。
→ このことは「慣性系」でのみ可能である。
※以下、慶応大学と同様の説明が続く。
・回転する円盤では、ユークリッド幾何学が成り立たない。
→ (上記のように)周の長さが 2πr より短い。
→ ユークリッドが成り立たない場合の幾何学が、既に存在する。
→ ガウス、リーマン
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・曲面上にも座標を決めて、運動や力学を記述することができる。
→ ガウスの曲面座標を用いる。
→ これにより、慣性系でないところでも、運動や力学の法則を
同じ形式で記述できる、というのが一般相対性理論である。
※以下、慶応大学と同様、現実世界での応用について説明。
(重力による光の屈折、水星の近日点移動、など)
*
京都大学での講演 (いかにして私は相対性理論を創ったか) 
・特殊相対論を考えるきっかけ
→ 光を伝える媒体としての「エーテル」の概念の矛盾。
→ ローレンツの式にめぐり合い。
→ 光速度不変の法則の正しさを確信。

・直面した困難
→ 光速度不変と速度合成則の矛盾。
・解決するきっかけ
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→ 友人との討論のなかでひらめく。
→ 「時刻の同時性」というのが絶対ではないことに気づく。
→ 5週間後に解決。 (参考:
魚と網のパラドクス)
・解決の内容 (1905)
→ 「ローレンツ変換」により、(一定速度で)運動する座標系の上でも
力学法則は同一の形式で成立する。
・一般相対論を考えるきっかけ (1907)

→ 速度変化のある座標系の上でも、力学法則の形式を同一にできないか?
→ 電磁気の力の力学は解決されたのに、「重力」が未可決である。
・解決のヒント

→ 自由落下するエレベータ(すなわち速度変化のある座標系)の中では、
重力が感じられない筈だ。
→ 速度変化の座標系の理論(一般相対論)は、重力の理論を導入すること
によって、両方の問題を解決できるのではないか。
・直面した困難 (1907~1912)
→ どういう数学でこの理論を記述したらよいか、どうしてもわからない。
・解決のヒント (1912)
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→ ゆがんだ空間を記述する数学「ガウスの曲面座標」が使えるの
ではないか。 (
ゆがんだ座標での光の進行)
→ 親友のグロスマンに教わった「リーマン幾何学」の方がよい。
・一時的な解決 (1913)
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→ グロスマンと一緒に、リーマン幾何学で一つの理論を作り上げた。
→ しかしこの理論ではどうしても重力がうまく記述できない。
・誤りを発見し、最終的に解決 (1915)
→ 2年間の苦闘の後に、正しい方向性に気づく。

→ 2週間後に、正しい方程式が完成。
◎当時の聴衆は、これらをどのように受け止めたか、高い関心はなぜか。
*
講演に随行した漫画家、岡本一平の記事。 
→ 仙台での講演の聴講記
「知事も聞いていたが、途中で退散した」
→ アインシュタインの似顔絵と、博士の画賛
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「アルバート・アインシュタイン、あるいは思索の倉庫としての鼻」
→ アインシュタインの講演スタイル
*
東大公開講座2009年、岡本拓司准教授の講演
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→
東大TV 4:30あたり
→ 第1次大戦後、日本が大いに国力を伸ばした時期、
科学に対するあこがれ。
*
金子努「アインシュタインの日本の知識人たちへの影響」
アインシュタインの日本滞在の社会文化的解釈
(『アインシュタイン日本見聞録』より)
→ 「学界の革命児アインスタイン来る」ある地方新聞の記事。
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→ 国家主義は「不自然な絶対性の形式」とであり、「相対性理論」は
文化生活、自由主義、自然な社会を貫く新しい思想である。
→ 「日本プロレタリア同盟」からの「貴下は日本青年に何を望まるゝや」
という質問に対するアインシュタインの答え:
→「・・・将来は人々による努力は
国際協力、また国際組織とつながって
いくが、絶対に軍の計画と結びつくことはないことを確信します。・・・」
◎石原純という人
→
Wikipedia
→
書評:和田耕作『石原 純 - 科学と短歌の人生』2003
→ 石原の短歌について詳しい。

→ 『科学ジャーナリズムの先駆者 評伝 石原純』西尾成子 2011
(表紙は右図)
→ 科学者、科学ジャーナリストとしての石原に詳しい。
→ 寺田虎彦とともに岩波の雑誌『科学』の創設に関わった。
→ 雑誌『科学』戦時中の巻頭言より (1936):
「・・・とくにその仕事において最も国際的普遍性を有すべき科学者においては
最も多くこのこと(
国際的対立を適宜に調整し矯正していくこと)に対する
自覚を保持して社会的な政治経済機構への正常な批判につとめることが肝要・・・」

終わり
*質問、コメント(メールで頂いたものも含む)
・アインシュタインは、いつごろどのようなことで「光速度一定の法則」を確信するようになったか?
→ 「光速度一定の法則」というのは、「動いている人から見ても止まっている人から見ても、
光の速度は同じ」という不思議な法則です。これはまた、光を伝える媒体である「エーテル」
などは存在しない、ということと同じです。アインシュタインは、京都講演でも述べてますが、
有名なマイケルソン・モーリーの実験(1887)を聞いて、エーテルの非存在を確信したという
ことです。また東京講演でも言っていますが、マックスウェルとローレンツの電磁気の方程式
でも確信できるということです。
アインシュタインの幼少のころのエピソードとして、「光の速度よりも速く走って、振り
返って後から来る光を見たらどうなるか、不思議に思った」という話がありますが、これは
光速度一定に気が付いたということにはなりません。
・リーマン幾何学は4階のテンソルを扱うのに、一般相対論方程式は2階のテンソルになっているのは
どういうことか?
→ 「それはアインシュタイン縮約による」といえば格好いいかもしれませんが、答えにはなり
ませんね。一般相対論方程式と、例えばリーマン曲率の式は次のようになっています:

空間のゆがみは一般に「リーマンの計量テンソル」で表されますが、これは2階のテンソルです。
そして一般相対論方程式は物質の存在が引き起こす時空のゆがみを表すものですから、当然2階
のテンソルの式になります。一方、曲率を求めるには(関数のグラフの曲率と同様)2回(2階)
の微分が必要になり、ランクが2つ上がって4階になります。
他にも、リーマン幾何学では座標変換や写像を計算するので、変換係数などに4階が現れます。
・アインシュタインは講演の際に黒板に図や式を書いて説明しただろうか?
→ 石原純の講演録には「教授は黒板に図を描いて説明した」とありました。九州大学などでは、
板書された黒板にニスを塗って永久保存しようとしたが、紛失してしまって、現在は見られない
ということでした。
・岡本一平は岡本太郎の父ではないか?
→ コメントありがとうございました。調べてみたらその通りでした。また、夫人、すなわち岡本
太郎の母は岡本かの子だということでした。
・講演の中で「アインシュタインに質問した人はいただろうか?」という問いがあったが、文献には
萩原雄佑が質問したという記録がある。
→ コメントありがとうございます。これは東大での専門講義での話かと思われます。萩原雄佑
という人は日本の天文学を新たに発展させた偉い天文学者ですが、当時は25歳くらいで、新進
気鋭の学徒だったと思われます。
※以上のほか、土井不曇に関する講演については、講演前に受講者の方に紹介していただきました。
ありがとうございました。