2023年1月21日 第682回 月例天文講座
グリニッジ天文台と標準時
制度の成立・普及の歴史
中央大学文学部教授 石橋 悠人
(右図は旧グリニッジ天文台と本初子午線、中嶋記)
19世紀の西洋世界において、天文台は社会のなかで、いかなる役割を果たしていたのでしょうか。この講演では、とくに時間の正確な計測と伝達に関する活動に焦点を当てて、歴史的な観点から天文台と社会の関係を考えてみたいと思います。主に紹介するのは、イギリスのグリニッジ天文台の取り組みです。
近代化や工業化が進み、鉄道・郵便・電信・汽船のネットワークや海外貿易が拡大するなか、高い正確性をともなう時間の利用が重要視されるようになりました。こうした動向に応じるように、グリニッジ天文台は時間の精密な計測や社会への伝達を担います。新しい技術である電信を用いて、国内全域に電送の時報を提供するサービスに乗り出すのです。標準時を伝える時報は、海港・鉄道駅・郵便局・電信局などの施設をはじめ、都市部に設けられた時計や様々な装置の調整に用いられます。これにより、国内全体で単一の標準時が浸透することになりました。
さらに本講演では視野を広げて、イギリス帝国の植民地の天文台にも触れたいと思います。なぜなら、植民地社会でも同じように、新しい時報技術や時計の装置が設けられ、天文台が正確な時間の伝達や標準化の拠点となっていたからです。世界各所で時間の正確化や時間に関する制度の整備が模索されるなか、1880年代には本初子午線(経度0の基準線)の統一化に関する議論が盛んになります。最終的に本初子午線の通過点として選ばれたのは、ご存じの通りグリニッジ天文台です。それでは、いかなる経緯でこのような国際的な合意が形成されたのでしょうか。本講演ではこの問題についても簡潔に論じます。
参考(中嶋記)
*右上図は
グリニッジ天文台のホームページ より。(クリックで拡大)
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石橋先生ホームページ