2022年5月21日 第674回 月例天文講座
星で望遠鏡を楽しむ天体望遠鏡博物館
天体望遠鏡博物館、代表理事 村山昇作
(右図は 天体望遠鏡博物館ホームページ より)
香川県さぬき市の中山間地域にある人口約400人の多和地区に世界唯一の天体望遠鏡だけの博物館、その名も「天体望遠鏡博物館」があります。
・どんな博物館?
・なぜ人口が少ない山の中に?
・どんな人が働いているの?
・どんな望遠鏡があるの?
・どんな活動をしているの?
・どんな経緯でできたの?
このような疑問を抱かれた方も多いのではないでしょうか。講演ではこうした疑問にお答えしたいと思います。
私が天文と天体望遠鏡に興味を持ったきっかけは中学生のときに行った京大花山天文台での天体観望会です。月、土星、木星などをクック社製の口径30センチ屈折望遠鏡で見せていただき、その美しさと漆黒の闇に浮かぶ神秘的な天体に魅了されました。そのとき、一生をかけてでもこれと同じくらい大きな望遠鏡を手に入れたいと思ったのです。
残念ながら口径30センチの屈折望遠鏡は手に入らなかったのですが、社会に出てからも天体望遠鏡のことを考えていれば、どんなストレスも吹き飛ぶという幸せな日々を送りました。
仕事で縁があった香川県で、地元の方、企業、行政、大学等から多くのご支援をいただき、天体望遠鏡博物館を開くことができました。天体望遠鏡博物館にはおもちゃのような望遠鏡から口径1mまで450台以上の天体望遠鏡があり、ほとんどが寄贈されたものです。
天体望遠鏡博物館では単に古い望遠鏡を展示するだけではなく、可能なものはできるだけ修復して実際に使えるようにしています。こうした修復作業がボランティア・スタッフによって行われているのも特色のひとつです。
また、修復された望遠鏡を使った天体観望会だけではなく、定期的に望遠鏡の手作り教室を開催しているほか、天体望遠鏡の使い方がわからない人向けに使い方教室も開催しています。
このように私たちは集まった天体望遠鏡を文化遺産として次世代に継承するだけではなく、望遠鏡を使って「科学との幸せな出会い」の場を提供しています。こうした活動はすべて無償のボランティアが担っていることも大きな特色です。
クック30㎝屈折望遠鏡と同じくらい大きな望遠鏡を手に入れたいとの思いが出発点になり、ここまできましたが、同じくらい大きな望遠鏡どころか、実はそのクック望遠鏡そのものが現在天体望遠鏡博物館に展示されているのです。私にとっては、60年間見果てぬ夢であったものが実現したのです。この経緯についても講演でお話しします。
しかし、夢はまだ終わっていません。天体望遠鏡博物館には次の目標があります。天体望遠鏡博物館が知られるにつれ、海外からの問い合わせやリアクションもインターネットを介して増えてきました。リアクションで最も多いのは、「よくこれだけの歴史的な望遠鏡が一堂に集まったものだ」、「既に失われていたものと思っていた望遠鏡が現存するのに驚いた」、「是非実際にこの望遠鏡で天体を見てみたい」といったものです。交通不便なところにあるため、国内の皆さんからも「行きたいけど行けない」といった声をよく聞きます。そこで今構想を練っているのは、リモート技術を使って世界のどこからでも天体を見ることができるリモート望遠鏡です。すでに研究者向けの超大型望遠鏡はリモート操作が当たり前になっていると聞きます。でもアマチュアが共同で使えるリモート望遠鏡はまだないようですので、世界に先駆けて世界中からアクセス可能なリモート望遠鏡を実現したいと思っています。技術的なめどは立ちつつあり、必要な土地も地元から提供していただけますので、あとは建築資金だけです。このあらたな夢を語って講演を締めくくります。
参考(中嶋記)
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天体望遠鏡博物館ホームページ