2022年9月17日 第678回 月例天文講座 

地球接近天体探索の新展開

  日本スペースガード協会理事長 奥村真一郎

(右図は 美星スペースガードセンター:日本航空協会のページより)

 地球に接近して衝突する恐れのある天体(Near Earth Object (以下NEO); 日本語表記は地球近傍天体または地球接近天体)を(1)早期発見し、(2)追跡観測により軌道を決定し、(3)衝突の恐れのある場合には回避方法を検討し、(4)衝突回避が難しい場合には少しでも被害が少なくなるように対策を考える、このような一連の活動をスペースガード、最近ではプラネタリーディフェンスと呼んでいる。この中でも特に、衝突する可能性のあるNEOを発見し、その軌道を決定するために行う観測活動は重要である。NEOは彗星も含まれるがほとんどは小惑星で、2022年8月現在で29000個以上が見つかっている。そのうち直径が数kmを超える大きな天体はほぼすべて発見され、1kmを超えるものも98%は発見されたと考えられている。しかし100mサイズのものは8割以上が未発見、さらに小さい10mサイズのものまで含めると99.9%が未発見であり、発見されている個数の1000倍ものNEOが未発見のままで存在しているという事になる。2013年にロシア・チェリャビンスクに落下した隕石は20mほどの小惑星と考えられているが、この程度の大きさでも地球への衝突により1500人もの人々が負傷するという被害が発生した。未発見のものが多い10mサイズのNEOを多数発見して軌道を決定することはプラネタリーディフェンスの観点から重要であるのに加え、NEOの起源や軌道進化を調べる科学的な観点からも重要である。

 今回の講演ではプラネタリーディフェンスの一般的な話と海外のNEO観測プロジェクトの紹介を交えながら、10mサイズの微小なNEOの大量発見を目的としてわれわれが進めているNEO探索観測プロジェクトの内容について詳しく紹介する。以下に示すようにキーワードは「トモエゴゼン」「重ね合わせ法」「即時追跡」である。

 本プロジェクトでメインに使用する望遠鏡は東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡である。この望遠鏡に搭載された最新鋭の観測装置「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)カメラ」はCMOS素子を84枚並べ、広視野を高速ビデオ撮影できる装置である。NEOは地球に近づけば近づくほど明るくなる一方で、見かけの移動速度が大きくなるため露出中に天体が移動してしまうことによる「トレイルロス」によって検出限界が浅くなってしまう。トモエゴゼンカメラは1素子あたりの視野が広く、さらに高速読み出しが可能なのでトレイルロスの影響を受けにくく、NEOのような移動天体の観測に適している。2018年に試験観測を開始し、2022年6月までに42個の微小なNEOを発見している。

 一方、「重ね合わせ法」とはJAXA研究開発本部で開発された、移動天体を高感度で検出するためのデータ処理手法である。短時間露出の画像を様々な方向・様々な移動速度を仮定してずらしながら重ね合わせることにより、1枚の画像ではノイズに埋もれて検出できなかった暗い移動天体を検出するための手法である。この手法もまたトレイルロスの影響を受けにくく、長野県入笠山に設置した口径18cm望遠鏡とオーストラリアに設置した口径25cm望遠鏡という、ごく小さな望遠鏡を用いてNEOを11個発見した実績がある。このデータ処理をトモエゴゼンカメラの観測データに適用することにより、その相乗効果によってより暗い、より小さいNEOを大量に発見しようというのが本プロジェクトの目的である。

 NEO候補天体を検出した際に重要となるのは、移動速度が速いため見失ってしまわないうちに速やかに追跡観測を実施して軌道を決定することである。この段階で出番となるのがJAXA美星スペースガードセンターである。ここでは日常業務としてスペースデブリの観測に加え、他の観測所で発見されたNEO候補天体について即時追跡観測を実施している。本プロジェクトではNEO発見のために特化した観測データではなく、トモエゴゼンカメラで定常的に運用している、超新星などの突発天体のサーベイ観測で取得したデータを流用しているために様々な制約があり、「即時追跡」がより一層重要になっている。

 講演では本プロジェクトの骨子となっている「トモエゴゼン」「重ね合わせ法」「即時追跡」について述べるとともに、プロジェクトを進める上での技術的な苦労話なども交え、進捗状況と今後の課題などについて紹介する予定である。



参考(中嶋記)
日本スペースガード協会、ホームページ

東京大学木曽観測所、トモエゴゼンプロジェクトのぺージ

*木曽観測所シュミット望遠鏡の写真は、JapanKnowledgeのページより。