2022年11月19日 第680回 月例天文講座 

太陽系の起源をめぐる小天体探査
小惑星リュウグウサンプルリターン

  東京大学大学院理学系研究科
 地球惑星科学専攻 教授  橘 省吾



(右図は、東京大学地球惑星科学専攻プレスリリースより)     サンプル収納コンテナの外に小惑星リュウグウ粒子を発見!

 C型小惑星は,太陽系の起源や進化の記録を残す天体,地球への水や有機物の供給源となったかもしれない天体であるという仮説が長年,提唱されてきました.しかし,仮説はあくまでも仮説であって,検証すべきものであり,「はやぶさ2」探査機は,世界で初めてC型小惑星からのサンプルを持ち帰り,地上で分析することをめざし,近地球C型小惑星 (162173) リュウグウを探査対象天体として,2014年12月に打ち上げられました.

 2018年6月から2019年11月までの17ヶ月間の探査で,小惑星リュウグウはそろばん玉の形状をしていること,地上の典型的炭素質コンドライトより暗いこと,全球的に含水ケイ酸塩の存在を示す近赤外線の吸収が見られること,現在のリュウグウはラブルパイル天体(瓦礫天体)で,前世代の小惑星の破壊・再集積でつくられたことなどが示唆されました.

 「はやぶさ2」は,2019年2月と7月の二回,赤道付近に着地(タッチダウン)し,サンプル採取を試み,いずれも成功しました.その後,探査機は2020 年 12 月に石や砂のサンプルを持ち帰りました.二回の着地で採取された総量 5 g を超えるサンプルは月以遠の天体から持ち帰られた試料として世界最大量です.これらのサンプルには太陽系の起源や進化,地球の海や生命の材料の起源についての情報が今も残っていることが期待されています.回収試料は,宇宙科学研究所での半年間の初期記載の後,総量の約6 %にあたる 0.3 gの試料が,「はやぶさ2」プロジェクトの初期分析チームに割り当てられました.初期分析チームは6つのサブチームからなり,化学分析チーム,石の物質分析チーム,砂の物質分析チーム,揮発性物質分析チーム,固体有機物分析チーム,可溶性有機物分析チームに分かれ,世界中の研究者や学生からなる総勢約400名の国際チームで一年間の優先分析をおこないました.

 講演では,なぜ「はやぶさ2」は小惑星リュウグウをめざしたのか,リュウグウでなにを見たのか,持ち帰られたサンプルはどのようなものだったのか,どんな分析がおこなわれたのか,リュウグウの石は太陽系・地球・海・生命の起源や進化についてなにを語ったのか,また,リュウグウから広がる天文学についてお話ししようと思います.


参考(中嶋記)
*右上図は、地球惑星科学専攻のプレスリリースページより、中嶋が引用。
 詳しくはプレスリリースページをご覧ください。
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橘先生、天文月報記事