2023年7月15日 第688回 月例天文講座  

VR(バーチャルリアリティ)を使った考古天文学

国立天文台名誉教授
自然科学研究機構特任教授  関口 和寛 


          (右上図はarcAstroVRのホームページより、クリックで拡大)

 考古天文学は、考古学と天文学を組み合わせて、過去の文化や文明に関する情報を収集し解釈する学問です。具体的には、古代の建造物の配置や構造から天体の運動や位置と関連づけを行い、古代の文化が天文現象に関する知識や信仰を持っていたことを明らかにします。また、考古天文学は人類の歴史と天文学の相互関係を理解し、文化的な遺産の保護と復元に貢献するだけでなく、宇宙や天体の観測に関する新たな洞察をもたらすこともあります。

 考古天文学調査では、日の出/日の入り、月の出/月の入り、惑星と星の位置、星々の空間パターン、または至点などの特定の日付での光と影の相互作用等と、人工または自然の構造物の方位角を評価します。このような関係を数か月または数年にわたって観察することは困難であり、遺構その物の保存状態も良いとは限りません。そこで、興味ある遺構を実測や記録から再構築し、過去の天体現象のシミュレーションに応じた効果を仮想3D空間として体験できるコンピューターシステムの活用が有用です。

 そこで、考古遺構を実測や記録から再構築し、過去の天体現象のシミュレーションに応じた効果を仮想3D空間として体験できるコンピューターシステム、arcAstro-VRを開発しました。arcAstro-VRは、高い精度で過去の星空を再現することが可能なオープンソースのデスクトッププラネタリウムソフトウェアパッケージであるStellariumをベースとして、LiDARやPhotogrammetryにより測量した構造物のデータを3D化して背景となる地形と天体のデータと合わせて可視化することが出来ます。また、VR空間の中を自由に移動したり、設定を変更することで考古遺構と背景の天体現象との関係についてさまざまな検証が行えます。

 本講演では、arcAstro-VRを使った例として、佐賀県にある吉野ヶ里遺跡の仮想再現モデルを紹介します。




参考資料 (中嶋記)
arcAstroVR ホームページ