人類の宇宙観の変遷 (2015 Nov. 12)
○各人の直感的な宇宙観
→ 各人の心理的宇宙はどうなっているか。「知識」としての宇宙でなく、生まれながらの直感的な宇宙観は
どのようになっているか。
→「月が何cm くらいの大きさに見えるか?」という問から。
→ 直感的な月の直径が5cmの人の宇宙の半径は5m。
= 月の視角は約0.5°なので、直径の100倍が天球(すなわちその人の宇宙)までの距離になる。
※ このような直感的な天球が、プラネタリウムのような半球状のドームでなく、東京ドームのように
つぶれた形のドームである場合、「日中の太陽よりも夕日がずっと大きく見える」という現象を
もたらす。
○古代人の宇宙観
・古代バビロニアの宇宙観
(大阪市立大、神田研のページより)
→ 自分たちの活動している空間が宇宙のすべて。
・古代インドの宇宙観
(「理科ねっとわーく」のページより)
※古代インドの宇宙観のペーパークラフト
→ 蛇の上に亀、その上に象があって、象の背中に
世界すなわち宇宙が載っている。
→ 世界の中心にある山は、仏教の宇宙観にもある「須弥山」。
(次項参照)
・仏教の宇宙観(飛不動尊のページより)
→「三千大千世界」の考え方などは、現代宇宙論の「宇宙の階層構造」の考え方に近い。
※古代人の宇宙観の特徴
→ 自分たちの活動領域が宇宙のすべて。活動領域の外の宇宙については、あまり考えない。
→「適当」に考えるか、宇宙のすべての根源としての「神」に帰着。
※古代でなくても、ヨーロッパ中世の暗黒時代でも同じように考えていた。
→ 参考:『中世賤民の宇宙』、阿部謹也
○ギリシャ時代の宇宙観(『眠れなくなる宇宙のはなし』参照)
・ギリシャ哲学の流れ
タレス: 万物の始源「アルケー」は「水」である。大地は水に浮いている。
アナクシマンドロス: アルケーは「ト・アペイロン」(無限定なもの)である。
大地は宙に浮いている。(進化論もある。)
ピタゴラス: 「アルケー」は「数」である。大地は球形である。
(ソクラテス: 人間哲学であり、自然哲学的な思索は伝えられていない。)
プラトン: イデア論。宇宙の中心に浮かぶ球形の地球と、それを取り巻く「たまねぎ構造」の宇宙。
地球天球説。→ エウドクソスの改良(27個の天球で惑星の動きを説明する。)。
アリストテレス: 地上の存在は4つの元素でできているが、天上界は第5の元素「エーテル」で
できている。恒星天を動かす「不動の動者」がすべての天体運動の根源。
→ ギリシャ哲学の集大成
・ギリシャ時代の宇宙の観測
アリスタルコス → 月と太陽の大きさを測定、太陽が非常に大きいので、太陽こそが宇宙の中心
であると考える。(一種の「地動説」)
※ちょうど半月のときの月と太陽の位置関係を測定すると、月と太陽の距離関係、さらには大きさの
関係を求めることができる。
ヒッパルコス → 精密な天体観測を行った。「歳差」を発見。
エラトステネス → 地球の大きさを測定。 (「サラリーマン,宇宙を語る」のページ)
※緯度の違う2地点における「太陽高度の差」と、2地点間の距離を測定すると、地球の大きさを
計算することができる。
・プトレマイオスの「天動説」
(右図、宇宙航空研究開発機構のページより)
→ 地球中心の惑星運動を、「周転円モデル」を用いて精密に表現。
『アルマゲスト』という書物にまとめる。
(右図は簡略化されている)
※ギリシャ時代の宇宙観の特徴
→ 宇宙の根源、あるいは我々の活動領域の外の宇宙についても、
とことん考える(=哲学)。
→ 分析的かつ合理的・数理的に考察、観測・観察も重視
(=現代科学にも通じる)。
○ヨーロッパ中世からルネサンス時代の宇宙観
・ヨーロッパ中世、キリスト教会の宇宙観
→ 神が宇宙を創り、またそれを治めさせるために人類を作った。
→ 人類中心の宇宙。宇宙構造としては、アリストテレス、プトレマイオスの宇宙観をそのまま採用。
※キリスト教の中でも、哲学的に考えた人はいた。 → アウグスティヌス (354-430)
→ 神による「無からの宇宙と時間の創造」というのは、現代宇宙論にも通じる。
・イスラム世界の宇宙観と、12世紀のルネサンス
→ イスラム世界が、古代ギリシャ・ローマの文化を保存し、後世に伝えた。
これが、11世紀の十字軍などにより、西欧社会にもたらされて、12世紀のルネサンスとなった。
・トマス・アクィナス (1225-1274) の神学
→ アリストテレスの自然哲学と、キリスト教神学との調和。『神学大全』
・14世紀、イタリアを中心としたルネサンス
→ ギリシャ思想のみでなくギリシャ芸術などもヨーロッパに入ってくるにつれ、イタリアを中心に、
キリスト教にとらわれない自由な思想・芸術が花開いた。
→ レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ
・コペルニクス (1473-1543) の「地動説」
(右図、宇宙航空研究開発機構のページより)
→ 数学的に美しく調和の取れた宇宙像。
(プトレマイオスのものは大変複雑であった。)
→ 太陽を中心とし、人類中心でない、キリスト教
の教義にとらえられない考え方。
・ジョルダーノ・ブルーノ (1548-1600)
→ 人類中心でない、無数の太陽が恒星として輝き、
無限に広がる宇宙、人類以外の宇宙人の存在、
などの過激な宇宙論。
→ ローマ教会によって火あぶりの刑に処せられる。
(近年、ヨハネ・パウロ2世によって、名誉回復。)
・ガリレオ (1564-1642)
→ 地動説を強力に主張し、ローマ教会から迫害を受けた。
(1992年、ヨハネ・パウロ2世によって、名誉回復。)
・ティコ・ブラーヘとケプラー
→ 惑星運動などの天体観測 (略)
※ルネサンス時代の宇宙観の特徴
→ 12世紀にはギリシャ哲学と神学の調和をはかったが、14世紀になると教会の教義に
とらわれずギリシャのような合理的・数理的な考え方をするようになった。
人類中心でなく、太陽中心の「コペルニクス的」宇宙観。
○望遠鏡で見た宇宙
・ガリレオの業績(1609年、初めて望遠鏡で宇宙を見る)
→ 天の川は星の集まりであることを発見
→ 宇宙は、プトレマイオスやコペルニクスの「太陽系+恒星天」
宇宙観から、天の川方向へ大きく拡大することとなった。
・ハーシェルの宇宙
(右図、岡村定矩著『銀河系と銀河宇宙』より)
※参考:ハーシェルの望遠鏡(同上より)
→ 大きな望遠鏡を建設し、ガリレオの天の川宇宙
をさらに拡大した(約7000光年)。
・カプタインの宇宙
→ ハーシェルの宇宙をさらに3万光年まで拡大。
※望遠鏡からわかる宇宙の構造
→ 宇宙は太陽系だけでなく、天の川の方向にずっと遠方まで広がっている。
○写真技術の発達と宇宙観の変化
→ 写真技術により、肉眼では見にくかった「星雲・星団」
が観測できるようになった。
・シャプレーの宇宙 (右図)
※参考:球状星団 M13(国立天文台より)
夏の夜空の天の川
赤外線で見た天の川(Wikipedia より)
我々の銀河系の想像図(Wikipedia より)
→ 球状星団の分布を詳しく調べ、天の川宇宙は「さそり座・いて座」
の方向に遠方まで広がっていると考えた(直径約10万光年)。
→「銀河系宇宙」
→ 太陽系は宇宙の中心でない。
・シャプレーとカーチスの論争
※参考:銀河 M31.jpg(国立天文台より)
論争の説明図(上記、『銀河系と銀河宇宙』より)
→「渦巻き星雲」は、銀河系内の天体か、銀河系の外の銀河系と
同じような天体か。
・ハッブルの観測
→ 渦巻き星雲は、銀河系と同じ、銀河系の外の天体
→ 宇宙は銀河系を越えて、はるかかなたまで拡大。
・バーデの観測と星の種族 (略)
※写真技術による宇宙観
→ 太陽系中心から銀河系宇宙へ、銀河系から渦巻き星雲(すなわち「銀河」)の分布する宇宙へ。
○最新の観測から見えてくる宇宙の構造
・ハッブル望遠鏡の写真から
(長時間露出写真)
・「超銀河系」は存在するか?(宇宙の階層構造の考えから)
→ 超銀河系は存在せず、(星団のような)「銀河団」
が果てしなく分布している。
・泡構造宇宙 (右図、 原図)
→ 右図のように、20億光年くらいまでは、銀河団は
「泡構造」を示していることがわかる。
(日米の研究者による「SDSS計画」より)
→ さらにその先を調べようとする「ALMA計画」
というのもある。