恒星内部構造理論 - 星とは何か?


○はじめに
 物理学を駆使して天体を研究する分野を「天体物理学」と称している.これは,
19世紀ころまでの天文学が,天測による航行や暦の決定などのための実用的な学
問であったのに対し,20世紀になって急速に発展した物理学などを取り入れ,自然
現象としての天体そのものを研究するようになった天文学の新分野である.これに
対し,旧来の天文学は,主に天体の「位置」を詳しく観測・計算するものであるので,
天体物理学に対しては「位置天文学」と呼ばれる.ただし現在では,天体位置の精密
観測から天体の物理的状況を研究することも行われるようになり,厳密な区別はない.

 このような考え方・方法論から「星とは何か」ということが研究され始めたのは,
19世紀の末から20世紀冒頭にかけてであった.そして,20世紀前半の物理学の急速な
進歩とともに「星とは何か」すなわち「恒星の内部構造の理論」は大きな進化・深化
を遂げ,現在我々は星の内部についてはかなり良くわかっている,と考えている.そ
こで本講座では,天体物理学がどのような方法で星の内部について研究し,現在どの
ようなことがわかっているか,について説明する.

 なお,このような方法でさらに,時間とともに星の内部がどのように変化してゆく
かということも物理学的な研究が進んでおり,これについては次の講座で説明する.

○説明の概要・要点
 詳しいことは実際の講座で説明することとし,ここでは要点のみを箇条書きでまと
めておく.

 ・近代物理学を星の内部構造の研究に初めて応用したのは,19世紀末,1870年,
  アメリカの科学者,レーンであった.またそれを体系的にまとめたのは,1907年,
  スイスの物理学者・気象学者のエムデンであった.
 ・彼らは恒星を「宇宙の中の気体のかたまりが,一方で万有引力によって収縮しよ
  うとし,他方で高温によって膨張しようとしていて,結局両者が釣り合って膨張
  も収縮もせず光り輝いている高温のガス体」と考え,これに物理学の方程式を
  いろいろ適用して数学的に計算した.
 ・計算の結果,このような考え方で恒星が説明できることがわかった.しかしこの
  時期にはまだ恒星の内部のエネルギー源は知られておらず,何十億年も輝くこと
  は不可能であるという,不十分な内容だった.
 ・これをイギリスの天文学者・天体物理学者エディントンが,1920年ころ,さらに
  新しい物理学を導入して改良し,満足のゆく恒星内部構造理論を作り上げた.
 ・ただしエディントンもまだ恒星のエネルギー源についてはわかっておらず,一つ
  の「仮説」を導入して計算した.しかしその結果は,「質量の大きい星は明るい」
  という「質量光度法則」をよく説明していたので,確かなものと考えられた.
 ・その後,1938年ころ,ベーテとワイゼッカーによって,星のエネルギー源は「水
  素の核融合反応」であることが明らかにされ,エディントンの「仮説」も解決し
  て,恒星内部構造理論は完成した.